――名探偵ゲーデル先生が買い物帰りのところ、商店街をぶらぶらしている助手のカンパネルラ君に出会いました。
- ゲーデル
- おやおや、カンパネルラ君。いい若いもんが、こんな時間からぶらぶらして。学校がいやなら、軍隊に入れてしまうよ。
- カンパネルラ
- あ、ゲーデル先生。ちがうんです。実は昨日、抜き打ちで持ち物検査があって、それで3日間の停学になったんです。
- ゲーデル
- やれやれ。君のことだから、大方、イデオロギーでも持ち込んだのだろう。戦後生まれの校長が全国でも過半数を超えてからというもの、何か勘違いした連中がそういうことにナーバスになっているからね。
- カンパネルラ
- 全然違います。でもイデオロギーって何なんですか?
- ゲーデル
- そんなことはとても私の口からは言えないよ。何しろ「イデオロギー」という言葉にはおおざっぱにいっても76個くらいの用法があるのだから。
- カンパネルラ
- なんだか、クーン(科学史家)が言ってた「パラダイム」みたいですね。つまりその言葉を使えば、何だって言えるということですか?
- ゲーデル
- しかしまるで何の役に立たない訳ではない。カンパネルラ君、今なら君に「右翼」と「左翼」の見分け方を教えて上げられるよ。
- カンパネルラ
- ぼくらが食えないのは、「国家が悪い」という抽象論に傾くのが左翼で、「アメリカが悪い」と妙に実体的な批判するのが右翼でしょ(笑)。
- ゲーデル
- どこかで聞いた話だねえ(笑)。ともあれ、「イデオロギー」というものを、何か意識的なものと思っているのが「右翼」、無意識的なものと思っているのが「左翼」だと思って間違いない。君が将来、教師にでもなって、校長先生から「イデオロギー調査」を受けたときなんか、きっと役に立つぞ。
- カンパネルラ
- じゃあ「あいつはイデオロギーを唱えてる」と誰かのことを悪口言う人たちは「右翼」なのですね。でもイデオロギーを唱えている当人は「左翼」なのではないですか。
- ゲーデル
- 唱えている当人は、自分の唱えている主義主張をイデオロギーとは思っていないんだよ。
- カンパネルラ
- じゃあ、何だと思ってるんですか?
- ゲーデル
- もちろん「科学」だよ(爆笑)
- カンパネルラ
- (爆笑)
- ゲーデル
- しかし君もひどいこと言うね。
- カンパネルラ
- 言ったのは先生ですよ。それじゃあ「右翼」の人のことを、「左翼」の人はどう思ってるんですか?
|